シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

戦闘 煌Side

 煌Side
*****************


誰か――

知った奴の声が聞こえたようで、思わずそちらに気を取られた。


「馬鹿犬、避けろ~!!!」


チピリスの声にはっと我に返り、同時に身体を斜め後方に捩った俺の頬に、何かが掠る。

位置的に俺の目を抉る気だったんだろう"爪"は、間一髪軌道が逸れ、直撃を免れた。

反撃(カウンター)で突き出した偃月刀は、また虚しく空を斬るばかり。

悔しくて舌打ちした俺に、玲の声が届く。


「ちゃんとしろよ!! 何ボケっとしてんだよ!!! 僕、串刺しになっちゃうトコだったんだぞ!!」


ぐいっと髪を引っ張られた。


「毟るな!! 狙われたのはお前じゃなく俺の目…「皆を指揮する"総司令官"の僕が、万が一があれば…バラバラになって困るのはお前達なんだからな!! 僕は狙われやすいの、覚えておけよ!!」


聞いちゃいねえし。

誰がいつから"総司令官"になったよ。

お前が指揮したのは『りすりす小りす』だけじゃねえか。


巡り巡る瘴気。


深い闇に紛れて、敵は来る。

闇と瘴気が強まるにつれて、その数は増えて行く。


俺達を弱者とみなした肉食獣の如く…骨まで貪ろうとする獰猛な攻撃性は、原始的レベルまで遡った狩猟本能によるものだろう。

それは過去、俺達が相対し…仲間を食らってまで貪欲な"食"を全うしようとした"生ける屍"と似てはいるが、その姿態は…あんな輪郭を崩したゾンビではない。

疾風のように動き、脅威の跳躍力を見せる…その姿はきちんとした人型。

伸びた爪を凶器に襲いかかってくる。


かろうじて捉えられた、敵の情報はそれだけだ。


早い。

早すぎる。


しかし、かわしきれない速さではない。

そう思えるのは…皮肉にも、それ以上の速さの中で、俺達は動いてきたから。


「櫂、小猿。大丈夫か!!!?」


「大丈夫だ。翠は!!?」

「逃専だけれど…逃げれている。何とか。死に物狂いで」


俺は口元で笑う。


皮肉だな。

あのゲームで、俺達の速度も…動体視力も鍛えられたようだ。


だけど。

俺達に攻撃をしかけてきた時が、一番の反撃(カウンター)チャンスだと思えども、攻撃が入る程の敏捷さまでは育っちゃいねえのか、武器はおろか…力も空回りで手応えが全くねえ。

休む暇なく、地面を飛び跳ねているのが現状。
< 777 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop