シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

提案

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「運転しているのは…百合絵さんじゃない。

"約束の地(カナン)"でも見た人形…」



鎮められた玲くんの声に、驚いたあたしと由香ちゃんは思わず立ち上がり、それぞれ頭を車の天板にぶつけ、崩れ落ちたついでに後ろにごろんと転がった。

目から星とひよこが仲良く輪を描いているけれど、今はそんなことを悠長に見届けている暇はない。

焦る玲くんの手を借り、あたしは由香ちゃんと共に、何とか姿勢を正した。


後ろからだけれど、あたしが見る限りにおいては、百合絵さんはいつも通りの百合絵さんで、きちんと…小さく見える運転席のシートからお肉ははみ出ているし、運転席は沈んでいる気はするし、車体も右に傾いているし、非常識とでも言うべき"異常"な光景は何もなく。


百合絵さんの応答だっていつもの通り必要最低限の言葉しか戻ってこないけれど、それでも玲くんや由香ちゃんは、明らかに百合絵さんの態度がおかしいと言う。

百合絵さんと付き合いが長い玲くんは判るけれど、由香ちゃんとあたしは百合絵さんを見知ったタイミングは同じだというのに、どうしてあたしは感じ取れないのだろう?


「あ…多分、塾の様子を見せようと、僕の気を由香ちゃんに流したから、その名残かも知れない」

凄い、由香ちゃんもとうとう超能力デビュー!?


「むふ!!?」


その言葉だけで、由香ちゃんが如何に期待しているかが判るけれど、


「少しだけの気だから、時間経てば消えちゃうだろうね…」


玲くんの言葉に、由香ちゃんのキラキラの目は哀しみに潤む。


「アニオタとしては…いつでもリアルに感じたいんだ…。いつもの師匠の台詞に」

「僕、アニオタじゃ…」


判る判る。

由香ちゃんとイロイロお話するようになってから、"瘴気"とか"結界"とかの怪しい単語に敏感するようになってしまったあたし。

よく耳にする割にはあたし自身からは縁遠いからこそ、無性に口にしたい衝動があるんだ。

それが…本当に感じることができるのならば!!


「芹霞…君、思考が曲って来ちゃったような…。由香ちゃん…ああ判ったよ。後でまた、リアルに感じさせて上げるから。ふぅ…うん、芹霞も一緒にね」


由香ちゃんと共に、いざ行かん!!!


………。


……はて、あたしは今、何処に向かっているのだろう?
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