杏子side

 これは、恭哉の噂なんだけどね。

  恭哉は、いつも女を見つけては、
 もてあそぶように、付き合ってたんだ。

  だから、恭哉は女好きって噂が流れてるの。
  
 でもその理由は、私以外誰も知らない。
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「恭哉ぁ。」

「杏子か。」

「帰ろっか。」

「あぁ、うん。」

  私と、恭哉は幼稚園から
 仲良しだった。

  …いわゆる、幼馴染っていうやつ。

  小学校の4年までは、
 ちゃんとした、まじめな男の子だったのに…。

「恭哉?」

「もう、帰るのやめよう。」

「分かった。」

  5年生から、恭哉は変わった。
 うーん…多分、

  『お母さんが亡くなった』のが
 きっかけだったんじゃないかな、と
  
   今でも思うの。

  恭哉は、母子家庭で育ってきたから、
 お父さんの顔を知らない…。

  女手1つで育ててくれた
 恭哉のお母さん…都さんに、
  恩返しがしたくて、

 必死に勉強していたんだ。

  でも…6月に亡くなってしまったんだ。

「恭哉くん?」

「俺と、遊ぼう。」

  恭哉は、自暴自棄になって
 他の女ともよく付き合うようになった。

  1年の時から付き合っていた、
 沙羅という彼女がいながらも、

  恭哉は、遊びをやめなかった。

「杏子っ…。」

「沙羅…?」

  私は、沙羅の相談相手だった。
 沙羅と恭哉をくっつけたのも、私なのだ。

「私…恭哉と別れようと思うの。」

  5年の秋。
 沙羅は大好きな恭哉と
  
 『別れる』決心をしたんだ。
 
「そっか…。」

  沙羅の決意を聞いて、
 私はただ、そう言うしか出来なかった。

  沙羅は、
 都さんが亡くなったことを
  まだ知らないようだった。

  でも、いま言えば、
 さっきの決意が揺らいでしまうと思った。

「沙羅…頑張ってね。」

  泣きそうな顔をした沙羅に、
 もっと追い打ちをかけてしまった私。

「うん。」
 
  もう、後戻りはできないのだと、
 悟ってしまった。