とある神官の話
7 胎動


  * * *




 ――――もうすぐ桜が咲く。


 長い冬が終わりを告げ、景色が豊かになった聖都では春一色となりつつある。
 宮殿がある敷地にも緑が現れ、休み時間に神官が談笑する姿が見えた。

 春だから気分的にもあがっているのかなんなのか、一気にカップルの姿が目立つのは私の気にしすぎなのだろうか?冬は雪云々があるから目立たないだけで、春になるといっきり姿を見せるように感じるだけか?――――とにかく、だ。
 宮殿に入る門の前は広場となっていて、一般人にも解放されている。宮殿の一部でもあるため、美しい彫刻が姿を見せている。



「…カップル率高いな」




 思わず私はそう漏らすと、何だかひがんでいるみたいだと苦笑する。二十歳過ぎた自分は恋愛経験なんてゼロに近い。羨ましいと思わないこともない。
 例えば―――休みに少し遠出するとか、買い物一緒に行くとか。
 神官となる前、同級生の女の子たちは恋愛話で盛り上がっていた。誰が好きかとか、誰がかっこいいかとかそういう話。私だってしたことがないわけではないが、私自身モテることはないし縁はないと無視していた。

 ただ…―――――。

 バルニエルで「貴方を思う気持ちは本当です」と、あのストーカー予備軍…ゼノンは言った。私か好きだというまで、私を口説き倒すと。
 馬鹿じゃ、ないのか。
 私は傷だらけだ。昔された傷は今も残るし、過去は良いものじゃない。むしろ汚いものだ。それを知っても、彼は変わらなかった。私を、好きだと言う。普通引くようなそれを知っても。
 それって―――凄く嬉しい。


 顔に熱が集まった。
 何を馬鹿な…!




「…ストーカー予備軍なくせに」

「呼びました?」

「うわっ!?」



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