哀しき血脈~紅い菊の伝説3~

ストーカー

 ラミアは出て行ったきり帰ってこなかった。
 ここに来た警官が何かを悟ったと言って後を追っていったきり梨の礫だ。
 さっき外で銃声がいくつも聞こえた。誰かに見つかり撃たれたのだろうか?
 だが、彼女には人間の武器は通用しないはずだ。もう戻ってきても良さそうな時間だ。
 相馬祐司はそう思って窓の外を見た。五階の窓から見下ろした外にはいくつもの赤色灯が輝いていた。
 まさか、もう見つかってしまったのか。相馬は窓から離れた。
 恐怖ではがぶつかり合う。こんな時になぜラミアはいないのだ。彼女の大いなる力が今こそ必要だというのに…。
 しかし、彼女が帰ってくる気配はなかった。その代わり彼の奥底から『声』が聞こえてきた。
『案ずることはない。奴らはおまえが目的ではない』
『声』は自信に満ちていた。
「ラミアは、ラミアはどこにいる?」
『ラミアは死んだ。銀の銃弾に倒れた』
「人間の武器は通用しないと言ったじゃないか」
『銀だけは別だ。だがそれを知る人間は限られている』
『声』は意味ありげに言った。
「どうするんだ、まだ復習は終わっていないんだぞ!」
 相馬は感情的に怒鳴った。ラミアが戻らない今、手に入れたと思っていた力はもうないのだ。
 相馬の心は沈んだ。自分を追い詰め、馬鹿にした女たちに復讐を遂げることができないなんて、こんな悔しいことはない。
 復讐を誓い、動物の血で五芒星を作り上げ、まさにこれからだというときに…。
 相馬は悔しさのあまり歯を食いしばり、唇の端から血を流した。
『そう悲観的になるな』
『声』は嗤っている。身をよじって悔しがっている相馬をみて楽しんでいるようだった。
『お前には十分強い力が宿っている』
 相馬の動作が止まった。十分なとから?。宿っている?。どこにそんなものが?
『そぅ、宿っている。この俺という力が…』
『声』は諭すように語りかける。
「その力はラミアと同じなのか?」
『ラミア以上のものにもなれる』
『声』の言葉は舐めるように相馬の体にまとわりつく。
『だがな、残念なことに条件があるんだ』
『声』の含み笑いが相馬の心を震わせる。
「条件?」
『私には血が足りない。肉が足りない。若い女の血と子供の肉を私に与えろ』
 それはラミアが最初に要求したことだった。だから相馬は最初の犠牲者を捕らえ、ラミアに差し出したのだ。それが自分の復習の相手と合致していたからだった。
「どうすればいいんだ?」
 相馬は内なる『声』に問いかけた。再び力を手にすることは彼にとって魅力的なことだったからだ。
『なぁに、簡単なことさ。捕らえて、殺して、屠ればいい』
『声』は相馬の中で高らかに嗤った。
 相馬の中で何かが断たれた。
 その瞬間、彼は人ではなくなった。
 彼は『もの』となった…。
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