家元の寵愛≪壱≫
壱 1人4役


小鳥の囀りと共に目を覚ますと、

凛とした空気が漂う静寂な和室に

雪見窓から柔らかい朝日が木漏れている。



私の左頬に吐息をかける主は、まぎれも無く私の最愛のヒト。

黒い艶髪が頬にかかり、ほんの少し髭が伸びかかって…。


4月と言えど、まだ朝晩は少し冷える。

彼が冷えないようにそっと布団に手をかけると、


―――――あっ!!

……また着物姿で寝ている。

シワになるからって、あれほど何度も言ってるのに。



藤堂に籍を入れて1カ月ちょっと。

パジャマ姿で寝たハズの隼斗さんは、

私が目を覚ますと何故か着物姿。

今朝は襦袢姿だからまだマシな方だけど、

時には袷姿の時もある。


一体、私が寝ている間に何が起きているのか?


私の眠りが深いせいか…2週間は気が付かなかった。



それが、

香心流17代家元『香雲』襲名披露の宴の翌日に

……その謎が明らかになった。


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