溺愛ごっこ

First

泣きたかった。

できることなら、大声を出して泣きたかった。

でも…できなかった。

「――何で…?」

自分の彼氏が見知らぬ女と肩を抱いているその光景。

フツーだったら泣きわめくのが当たり前だろう。

泣きわめいて、当人に問いつめるのがフツーだろう。

でも…あたしにはそれができなかった。


「――クッ…!」

飲んでいるお酒の味がわからない。

いや、わからない方がいいのかも知れない。

だって……忘れたいから。
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