水面に浮かぶ月

嫉妬と奪取



自宅のポストにその封筒が届いたのは、夕方だった。


消印は昨日。

差出人の名前はなく、代わりに【T】とだけ書かれていた。



光希ははやる気持ちを押さえ、封筒を開けた。



鍵と、SDカードと、USBメモリ。

中身はそれだけだった。


光希は急いで透子に電話を掛けた。



「ありがとう、透子。透子ならやってくれると思ってた。リョウには気付かれてないよね?」

「うん」


興奮する光希とは対照的に、透子は気のない返事を返すだけ。



まさか、リョウに対しての罪悪感なんて持ってないよね?

あんなやつのことなんて、気にしてるわけないよね?


それでも、光希はわめき散らしたい気持ちをこらえた。



「封筒の中に鍵があったでしょう? あれはリョウの部屋のスペアキーよ」

「うん」

「リョウの部屋の食器棚の中には、手提げ金庫が隠してあるわ。金庫の鍵は、テレビ台の裏にガムテープで貼り付けてあるから」

「それは貴重な情報だな」


光希が頭の中で計画の第二段階を考えていたら、



「私、これから出勤なの。ごめんね。もう切るから」


素っ気なくだけ言って、本当に電話は切れてしまった。



光希は茫然とする。

透子が光希に対してこんな態度を取るのは初めてだったから。


光希は唇を噛み締め、ガッ、と壁を殴りつけた。

< 81 / 186 >

この作品をシェア

pagetop