奴隷戦士
クルトとジル
「お前ら、本当に知りたいのか?」


ジルは苦虫をかみつぶしたような顔をした。


あまり良い話ではないらしい。


「人は得体のしれないものに不安や恐怖を抱くものだよ…」


教師が言っていたことをそのまま言うと、ジルとクルトは目をしばたたかせた。


「…………なにそれ…すげえかっこいい」


「ばかかお前は」


ジルがキラキラした目でぼくを見るが、クルトはそれを知っていたようで、彼をけなした。


あぁ、前に道場の人が言ってた「世界が知れる」っていう意味は、言葉の意味だけでなく、人からどう見られるかってことも入っていたのかと思った。


「仕方ないだろ、お前と違って俺は学(ガク)ねえんだ。んなこと、今日を生きてくのに精いっぱいな俺は知らねえよ」


ブツブツと文句を言うジルに、クルトは小さく謝った。


「で、この先どうなってんだ」


クルトがジルを見る。


「俺が聞いた話、攫ってきた子どもは孤児院に入れさせるんだとさ」


真剣な顔をして、ジルがヒソヒソと言う。


「攫った子どもを孤児院に入れる?なんだそのワケ分かんねえ話」


クルトが眉根を寄せた。


嫌悪感を隠さない人だと思った。


この檻の中で、一番子どもらしい反応ではないかと思う。


「なにが?」


ジルが聞いた。


ぼくもクルトが何に嫌悪感を抱いているのかイマイチ分からない。


「いや、孤児院って知ってるか?」


「孤児がいるところでしょ?」


「そうだ。でも俺は親がいる」


「…お金に困ってたから、裕福な家庭から子どもを攫って身代金をたくさん取る、とか?」


実際にぼくたちの寺で、そういうことがあったらしいから聞いてみる。


かれこれ十五年くらい前の話で、お手伝いさんから聞いたから、ぼくが寺に来てからは無いらしいが。


「例えば、俺とかか?」


クルトが自傷的になる。


「あ、裕福だったんだ」


それなりに知識があるし、身なりもそれほど悪くないから、貧乏ではないと思っていたけれど、本当だったんだ。


「うらやましいな、口が悪いのにな」


ジルと二人でうらやましがってみる。


「口の悪さは関係なくねえか」


「気にしてるの?」


「親から直せって言われててな」


一瞬、クルトが眉根を下げた。


やっぱり、親と離れると寂しいものなのだろうか。


一緒に住んでいる人と離れるっていう点では、確かに寂しいのかもしれない。


また、じわりと涙が出てくる。


鷹介もいないし、花もいない。


「…ふーん」


少し、沈黙が続いた。


「おい、話戻そうぜ。何の話してたっけ」


話がそれたことに気づいたクルトと目が合った。


目に涙を浮かべているぼくを見てぎょっとしたが、それに触れることはなかった。


「なんだっけ」


「孤児院がおかしいって話」


ジルが言う。


なんとなく、ジルも勉強すれば「バカ」という偏見を取ることができるのではと思った。


「あ、そうそう。孤児院は善意でやってるんだ」


「善意?」


「それって見返りもないってこと?」


「おおかた、合ってる」


「へー…」


タダでそんなことする奴もいるのか…とジルがつぶやく。


「もし、金を目的にこんなことしてたら、それは善意じゃねえ。そんなの孤児院のすることじゃねえ」


クルトが怒っているように感じた。


なんとなく、そんな気がした。


「…もし、そんなことをする孤児院があるとしたら?」


「なにか、ワケアリなのは確実だな」


そう言うクルトは、ひどく辛そうな顔をしていた。
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