モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。
***


ゴールデンウィークも
後半に差し掛かり
神村の店は何とか明日、
再オープンを迎えようとしていた

「本当にすいません、皆さんにまで
お手伝い頂いて…
ああ、杜さん、その鉢はこっちに
お願いします」

神村がてきぱきと指示を出す
仏頂面の杜が開店祝いに届いた鉢植えを
言われた所に運ぶ

すると、その場所にいた美雨はスッと
他の場所へと移動した

「美登さん、美登さんっ…」

「どうしました?神村さん?」

「しっ、ちょっと、こちらへ…」

と、小声で手招きをする神村の元へ
美登が行く

「神村さんどうしたんですか?
こんな隅っこで、早くしないと明日の開店に間に合わないですよ」

「ええ、すいません。
わかってるんですけど、
ちょっと、気になって…」

と、目線を杜と美雨に向ける神村

「ああ、二人?
僕もね、ここ最近、忙しくて遠方に
行ってたりしたものですから
全く二人に会っていなかったんですよ
帰ってきたらこの調子で
確かに不自然ですよねぇ…
もちろん、僕も気になってましたよ
今朝からもうおかしかったですからね
何か、あったんでしょうねぇ…」

「あのぉ、何だったら私、席外すんで美登さん間に入って三人で話します?」

と、神村

「いや、神村さん。まずは、明日のオープンですよ。ほら、そこのパッキンもばらしちゃっていいんですよね?」

そう言って手を動かしながら美登は
この数日間の出来事を思い返し
そして、深く溜め息をついた








美登は少し前、とある場所に行っていた
それは、ある人物に会うために…

美登は自分の考えが
正しいかどうか、解らない

ただ、美登はもう嘘に疲れていた
自分の気持ちに嘘をつき続けることに
疲れきってしまった

それで、ある場所へと向かったのだ
何もかも、終わらせてしまいたかったからだ

自分が動くことにより、
これまでの関係が全て壊れようとも
例え、何もかもが破滅へと向かおうとも…

そうするしかないと思った





けれど結局、美登はやはり自分の感情だけは
押さえる事にした

それが自分なんだと
それが僅かに残るプライドなんだと…

美登は神村に声を掛けた

「神村さん、先程の件でご相談が…
どうです?
僕たちは充分、働きましたし
いつものドーナツでも食べながら
お話させていただきたいのですが…」

美登の言葉を受け、
神村はなるほどと少し頷くと

「美雨ちゃん、悪いけど
少し席を外すけどいいかなぁ?
あとは適当に君に任せるよ
もちろん、美雨ちゃんと杜くんの分の
ドーナツ買ってくるからさ
さあ、早くいきましょう、美登くん」

嬉しそうに言うと
神村は美登の背を押し外へと出た

外に出るなり

「いやぁ、さすが美登くん
上手く二人きりに出来ましたね
何とか、話し合ってくれれば
良いんだけどなぁ
美雨ちゃんには幸せになって
もらいたいんですよね
さあて、折角だし、
ゆっくりさせて貰いましょう。
中年の僕の体は今にも悲鳴をあげそうですよ」

神村は笑いながら言った

美登も神村に
曖昧な笑みを浮かべながらも
心の中では
自分のお人好し加減に愛想を尽かしていた

自分の気持ちを押さえ
あの二人を仲直りさせようと
している自分に
呆れるとともに
やはり、これが自分なんだなと
改めて思っていた
























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