『短編』理想の上司



スーツをスマートに着こなしたその男こそ、あたしの教育係の永瀬渉(ながせ わたる)。

仕事ができて、イケメンで、そして優しいと評判の課長だ。

一目、彼を見た瞬間、あたしは恋に落ちた。

そして、仕事中の真剣な姿を見て、時折見せる屈託ない笑顔を見て、あたしはますます惹かれていった。



「できました」

あたしが作成した集計表を永瀬課長に渡すと、彼はにっこりと微笑み、

「どれどれ」

と言ってチェックし始めた。

集計表をチェックする真剣な顔に、思わず胸がきゅんとなる。

永瀬課長は、細長い縁なし眼鏡をくいっと中指で押し上げると、

「この数字は大きすぎるな」

と言って、赤いボールペンでチェックした。

「あ、本当だ。すみません」

凡ミスをしてしまい赤面していると、永瀬課長は、

「大丈夫、がんばれ」

と言ってにんまり笑ってみせた。


この会社に入社して、3ヶ月。

仕事はまだまだわからないことばかりで緊張の連続だけど、あたしを優しく指導してくれる永瀬課長のおかげで、なんとか頑張れている。

永瀬課長だから、頑張れる。

< 1 / 20 >

この作品をシェア

pagetop