In the warm rain【Brack☆Jack3】
序章
『よくやったね』



 ――…誉められるのが、好きだった。

 頭を、くしゃりと撫でられるのが好きだった。




『ねぇねぇ、見て! 言われたとおりにやったらちゃんと当たったよ。わたし、エラい?』




 手に持った黒い鉄の塊は、とても重かったけれど。



『…あぁ、エラいね』




 ――誉められるのが、好きだった。

 その言葉をもらうためだけに…頑張れた。




『今度はもう少し難しくなるぞ。この的に当ててみろ』




 うん。 何でも言うとおりにするよ。




『よくやったな』




 ――もっと。




『さすがだな、――』




 …もっと…!




『すごいじゃないか、――』




 もっと!!




『よくやった、――』




 もっとよ、もっと!!




『――』




 もっとあたしのことを誉めて。

 もっとあたしを見てよ。

 何だってする、誉められる為なら、何でも言うとおりにするから!




『――…』




 聞こえない。

 一番聞きたい言葉が、聞こえないのよ!

 その言葉を聞くために、ずっと頑張ってきたのに。




『――…』




 聞きたいのに…!

 どうして聞こえないの!?

 その言葉が聞きたいの!

 どうしても聞きたいの!!


 ――…だって。




『よくやったな、ミサト』




 その言葉だけが、あたしの生きていく理由…。

 その言葉だけが、あたしが生きていける場所。








 ――…あたしの、全てだった――!!
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