青い星〜Blue Star〜






「 腹を斬る作法も知らぬ下司め 伊予松山藩(現在の愛媛県松山市)で中間だった時に貴方の上官に言われた言葉だな。原田左之助忠一さん。天保十一年に生まれ谷万太郎さんに種田流槍術を教わり免許皆伝。隊内では 死損ね左之助とアダ名がつけられていますよね。上官と喧嘩して勢い余って腹斬るほど短気だと言われてるが江戸藩邸にいた頃は内藤助之進という年下の男の子の遊び相手だったという話も伝わっているぞ。………って、おい、どうした。口が開いているぞ。美丈夫が台無しだ。」



見ると、原田だけでなく皆一様に口が開いている。

奏の指摘に我に返ったように原田は奏は抱きついてきた。




「お前すげぇな!助之進のことなんか、話す機会もなかったから、此奴らも知らねぇのに!本当に先の世から来たのか!」




すげぇ、すげぇ、と興奮冷めやらぬ様子でぎゅうぎゅう抱きしめ続ける原田に奏の思考は完全にフリーズした。


実は奏、生まれてから一度も恋というものをしたことがなかった。
その上、花顔雪膚で該博深遠である奏はいつの間にやら高嶺の花のような存在となり誰も手を出すに出せなかったのだ。


生まれてこのかた十八年間一度も恋人がいなかった奏にとって原田の抱擁は(彼としてはシュートした仲間に抱きつくサッカー選手くらいのものだったろうが)大事件であった。


何も考えられていない頭のまま奏の記憶はそこでプツンと途切れた。

気がついた時には原田は障子を突き破って庭に飛んでいっていた。

< 35 / 84 >

この作品をシェア

pagetop