黒雪中花 -Narcisse Noir-




はじめて買った化粧品。


ドキドキと胸を高鳴らせて。


遅咲きにも程があるでしょうね。二十を過ぎた世間から言うと立派な大人の女が


まるで少女のように胸をときめかせて。





まるであのときの夜のように―――





うっすらと積もる雪化粧のように、私はこの顔を飾るようになりました。






髪型も服装も。


今まで無縁だったファッション雑誌なんて買って。


まるで魔法を手に入れたように私はドキドキと胸が高鳴りました。


「雪ちゃん、最近きれいになったね」


男性ばかりの総イッカでそう言われるのはもはや挨拶のようなものですが、それでもそう言われると嬉しいものですね。


「なぁそう思わない?鷺澤」


課員がそう聞いてもあなたはぎこちなく笑顔を浮かべるだけでした。


他の社員同様、挨拶でいいから、冗談でいいから





「きれいになったね」





そう言ってほしかった。


いえ、私はあなたに恨み言を言っているわけではないのです。


こんな愚痴めいたことを書いてしまったことを不快に思われたのならお詫びいたします。


さて、お話を戻させていただきますと、


入社二年目で再び課の忘年会がやってきました。





その日もまたはかったように―――






雪の降る日でした。






< 12 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop