黒雪中花 -Narcisse Noir-




総務第一課は会社の「なんでも屋」と呼ばれ、その名の通り何でもやりました。


一課と付くわけですから当然二課、三課もあるのですが、それでも一課はほかの二つの課に比べていわゆる「雑用係」


ちなみに二課は受付業務を主とするので自然女性が多く、またファッション雑誌から抜け出てきたような美人揃いでした。


イッカは会社に貢献しているとは到底思えない仕事ばかりでしたね。


例えば廊下の電球が切れ掛かっているから代えてくれだとか、


風邪をひいたから薬を持ってきてくれ、だとか。


他には郵便発送や社内郵便配達係りなんかもしましたね。


何をやるにも鈍くさくて、不器用な私には丁度いい部署ではありますが男の人にはプライドだってあるだろうし


自慢にならないお仕事だとお思いの方もいらっしゃったみたいですね。


「参るよ。何でもかんでも『総イッカ(総務部第一課)』に頼んできてさ。


トイレットペーパーの補充なんて掃除業者に任せてればいいだろ」


そう言って愚痴をこぼしていたのは、同じ課のあなたの同僚でしたね。


敢えて名前は伏せさせていただきますが。


しかし、このような考えを持っていらっしゃる方々は少なくないようで、


「俺はこないだ消耗品発注書に印鑑漏れがあったから、それを指摘したら


“総イッカが偉そうに”なんてぼやかれた」


彼らの愚痴をきちんと聞いたのは、その日の暮れの


忘年会のことでした。


総イッカは男性ばかり5人程。その中に女性は私一人。


なので、さして美しくない私も彼らの中にいるとちやほやしてくれました。


あまり男性に優しくされ慣れていない私は、嬉しいと思うよりも緊張してしまいます。


そんな私の緊張を解きほぐすように、あなたはいつも冗談を飛ばして笑わかせてくださいましたね。



気心知れた友人に会社でのことを話すと


「逆ハーレムじゃない」と羨ましがられましたが、私にとってはそうでもありません。


何故こんなに男性が多いのかと言うと、総イッカは力仕事が多いからですね。


電球一つ変えるにしても大きな脚立を軽々片手で運ぶ課員の方々。


それを見て、「ああ、なるほど」と納得いたしました。


もちろん私にそんな仕事ができるはずもなく、私はこの課の次にえらい主任のお仕事をサポートする、


いわば課のお留守番のようなものでした。


「腰かけOLじゃあるまいし」とまたも友人が苦笑を漏らしていましたが、私にとってはその言葉のままでも別にいやではありませんでした。


今は女性が社会進出する時代ではありますけれど、何の取り得も資格も持ち得ない私がおこがましくもそんな地位を望んだことは


一度たりともございません。



楽してお給料を手に入れようなど考えはしませんが、それでも分相応と言う言葉があるように


私には私のペースがあり、またそれを細々と守っていければ充分だったのです。





< 3 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop