BRACK☆JACK~序章~

【4】




【4】



 都会の空は狭い。

 どの国でもそう思うのだが、アジア最果てのこの小さな国ではなおさら、そんな事を考えてしまう。

 本当なら太陽がビル群の向こうに沈むのを見られる時間なのだが、今日は朝から降り続く雨のせいで、そんな光景すら見えなかった。

 どんよりとした空は、この都会になおさら暗い印象を与えている。

 誰もいない公園で、ミサトはそんなことを考えながらベンチに座り、傘も差さずに空を見上げていた。

 なんだかすごくマイナス思考になってしまうのは、たった今“仕事 ”を終えたばかりだからだ。

 ――…いつものことだった。



「雨は、好きかね?」



 いきなり声をかけられて、ミサトはびくりとしながら振り返る。

 見ると、そこには背中を少し曲げて、杖をついた一人の老人が立っていた。

 平然を装いながらも、ミサトは後ろのポケットに隠し持っていたナイフに、そっと手を触れる。



(こんなに近づかれるまで、気配を感じなかった…)



 こんなことは、ミサトにとってあり得ないことだった。



「日本人は、水に濡れるのが嫌いと聞いたからのぅ…そんな風に雨に打たれている人は珍しいと思ってな」



 老人は、そう言いながらミサトの隣に座る。

 警戒はしてみるものの、この人物から殺気はまるで感じられなかった。



「おじいさんは、雨、好き?」



 ミサトは、そう聞いてみる。

 すると老人はにっこりと頷いて。
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