プラトニック
強引な、でもやさしい腕が、わたしの体をタクシーに押し込んだ。


何が起こったのか理解できないまま、車の外で雨に打たれている彼を見る。


「運転手さん、行ってください」


ドライバーに声をかけて、瑠衣は一歩後ろにさがった。


「何言ってんの? 片瀬くんの方が先に帰らな…っ」

「俺は次のタクシーに乗るから平気っす」

「アカンってば。空車少ないのに」

「だったらなおさら、先生残して先に帰るとかできへんよ」

「……」


行きますよ、という運転手の声がして、ドアが閉まった。


雨粒のはりついた窓ガラスの向こうで、彼は手を振っている。

少しはにかんで、肩をすくめる、いつもの癖。



その姿はあっという間に遠ざかり、
わたしのまぶたの裏にだけ、いつまでも残った。






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