最悪から始まった最高の恋
最悪の序章

第1話 お持ち帰り事件勃発!!

 御蔵彩菜(みくら あやな)は、大好きな尊敬する父の事を思いながら、心の中で、時々自問自答しながら、父に伺うように語りかけていた。これは、父を亡くしてからの癖でもある。

 母を早くに亡くし、幼少期から思春期まで亡き祖母が母親代わりのようになって育ててくれ、祖父母と父と言う家庭で育ってきた。家事や細々した事は祖母の存在が大きかったが、父親も飲食業の自営で忙しい中、時間を割いてくれて、淋しくないようにと学校行事や、地区の子供会のイベントや、PTAまで積極的に参加してくれて、母親のいない淋しさを父親の大きな愛で埋めてくれた。体は小柄な人だったが器はとっても大きい人。彩菜にとってはとっても大きなかけがえのない愛する家族であり父であった。

 ――お父ちゃんが生きていたら怒られるかもしれない……。麻布のクラブの厨房で働いている私……。
 味の『あ』の字も分からないような、酔っ払い相手の、水商売系の店の厨房で娘が働いてるなんて……。厳格な父だったから、やっぱり怒ってるかな?でも、ホステスじゃないから。厨房だから。少しの間だけ許してよね、父ちゃん。
 けっこう時給がいいから、頑張ってお金貯めて、早くお店を再開させられそうだよ……。

 父ちゃんの店が燃えちゃってから5年が過ぎたね。
 大した財産もない慎ましやかな家だったけれど、おじいちゃんの代から継ぎ足し継ぎ足し、あのおでんの汁(つゆ)の入った壺は我が家の家宝……。宝物だったね。
 あの宝物の壺を持ち出そうと燃え盛る店の中に飛び込んで死んじゃうなんて!! 父ちゃんは馬鹿だよ。命あってこそだよ!! 汁よりも父ちゃんの命の方がどれだけ大切な宝物だったか。

 更地になったあの土地に、またお店を建てて、『ご飯家“伝承”』を出来るだけ早く再開させるからね。あと少しで小さな店を建てられるぐらいの資金が貯まりそうだよ。もうちょっとだからね。


  ――そんなある日、人生最悪の事が起きた。
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