朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
第十三話 貴次の誘惑
「踏み込みが甘いっ! もう一回!」


 清涼殿の庭院に貴次の怒声が響き渡った。


 昨日の約束通り、稽古を受けに来た柚は、稚夜の住まいもある清涼殿に来ていた。


日頃、稚夜が稽古を受けている庭院は、とても綺麗に整備されていて、公園ほどの広さもある。


また、天皇の日常生活の居所として清涼殿は造られたので、役人はほとんどおらず、とても静かだった。


 袴を履き、かつらの長い髪を頭部で一つに束ね、木刀を持って貴次と対峙している柚は、息を荒げ肩を揺らしていた。


「結構強いと息巻いていたのにこの程度とは、まだまだですね」


 貴次は不敵な笑みを漏らした。


その笑みにカチンときた柚は、被っていたかつらを地面に叩きつけた。


「これが重くて邪魔なんだ!」


 庭院の隅で体育座りをしながら、貴次と柚の稽古を楽しんで見ていた稚夜は、髪の短くなった柚を見て思わず立ち上がった。


「姉さまが男になった!」


「違う! 私は女だ!」


 慌てて稚夜に言うも、稚夜はまだ驚いた顔で柚を見ていた。
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