重なる身体と歪んだ恋情
電話なんて、与えるんじゃなかった。

仕事には確かに便利だがこういった場合不自由極まりない。

八重がどうしても欲しいというから取り付けてやったが……。


「外すか」


千紗のドレスさえ出来てしまえばもう用はない。

彼女がまだ欲しいと言えば別の場所で作らせればいいだけ。

店を出すまでは、それはよく懐いていた八重も独り立ちし始めると途端に欲が前面に押し出してくる。

そんな女を好ましく思っては居るけれど、度が過ぎると鬱陶しいだけ。


「奏様、車の準備が出来ました」

「今日の接待場所は葛城だったかな？　緑川」


私の声に「はい」と答えながら頭を下げる緑川。

華奢な緑川は不要なことは一切言わない従順な男だ。如月と違い、全く意見を言わないところが多少物足りなくもあるが。


「ならそのまま葛城に泊まると家のほうに連絡を」


その声にも緑川は顔色ひとつ変えず「はい」と答え、また頭を下げた。
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