重なる身体と歪んだ恋情
コンコンッと鳴るドアに「はい」と答えると「小雪です」と声が聞こえた。

彼女は私が「どうぞ」と言って始めて彼女はドアを開ける。


「あの、ご気分は?」

「普通よ」


そう答えると小雪はホッとするような仕草を見せる。

なに?

昨日、私、何かしたのかしら?


「朝食の御用意が出来ました。奏様もお待ちです」


そう言われて、私は髪を結いながら「分かったわ」と答えた。

手鏡で何とか髪を整えて……。

それにしても鏡が無いのは本当に不便だわ。

我が儘と罵られても買いに行かないと。

ううん、彼がいいと言ったのだから買えばいいのよ。

そう、昨日お風呂で……。

そういえば、彼はいつお風呂から出たのかしら?


「……」


彼と買いたいものの話をして、それからは?

ちょっと待って。

私、本当にどうやってここまで戻ってきたの?


「千紗様?」


私の手からポトリと落ちるブラシ。


「どうかなさいましたか?」


血の気が引くって、

多分こういうことを言うのね……。

どう考えたって無意識に帰ってきたとは思えない。

彼が先にお風呂から出たなら、私は間違いなくこの世にはいないはず。

と、言うことは。


「……う、そ」

「千紗様?」


なら、もしかして私は――。
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