オートフォーカス

３.宮間加奈さん

「はあ…。」

１２月の神戸はやっぱり寒い。

柵にもたれ、外から賑やかな会場を眺めながら篤希は白い息を吐いた。

白い息の向こうには白熱灯の柔らかい灯りが並んでいる。

さっき切ったばかりの雅之からの電話に少し緊張が和らいだ気がして肩の力を抜けた。

「あー…緊張する。」

それでも緊張がなくなることはない。

深呼吸をしてゆっくりと瞬きした。

夢じゃない、そう確認して少し気合を入れてもみた。

ここに来るまでに何回かこの日の夢を見た、まるでデジャヴのような気がするのはきっとそのせいだ。

調べすぎて想像しすぎて頭の中で具体像が出来上がっていたのだろう。

「綺麗な景色だ。」

とりあえず１枚、篤希はカメラを構えてシャッターをきった。

目の前に広がるのは暖かな色の照明と賑やかな人混み。

久しぶりに手にしたカメラも変わらずいい音を出してくれている。

ドイツのクリスマスマーケットを再現した、期間限定のイベント会場に篤希は来ていた。