天神楽の鳴き声
「もー、あのような態度はお止め下さい、と何度も、何度も、申し上げたでしょう!!」


「はいはいー、ごめんねー。りっちゃん」
「雛生様っ!!…あなたは、天神楽の為に舞い歌う、ただ一人の朱色の巫女様なのですよ!!」


雛生の学習しそうにない態度に莉津は、頭を抱える。その隣でけらけら笑う美人が一人、腰には細めの剣を携えている。

「笑い事じゃないですよー…明乎(メイコ)」

「だぁって、もう、雛ちゃんってば、はっちゃけすぎですよーっ」


明乎の高く結った長い髪が揺れている。彼女は蒼に属す、雛生の護衛を務める女性剣士だ。豊満な体型をしていて、胸元を出すことを辞さない開放的な性格だ。
その事を並みしかない雛生と莉津が恨めしげに思っているのは秘密だ。明朗快活、周りに慕われる明るい性格で、美人だがはっきりとした性格のため、莉津とは逆に男より女のほうに人気がある。


「だって、私、感謝なんてしてない!!」

「そのような考えは寿命を縮めます!!…あなた様には次の帝を産む責務があるのです」
「あたしからも、それは反対かなぁ。危ないです」


口々に反対される。
「まだ、思っているんじゃないでしょうねーぇ。あの事」
「え?当たり前でしょ。りっちゃん」

「もー。婚姻の儀からもう一年経ったというのに!…あきらめてくださいー」

「私は、この結婚は一段階目だと思ってるから」
「もーっ!!」

怒っている莉津に雛生は適当に返事をし、彗由宮(スイユウキュウ)に入る。

彗由宮、というのは帝と朱色の巫女たる雛生のために用意された小さな邸である。
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