俺は使用人、君は姫。
☆第一章

5年後

あれから、五年の歳月が流れた。

姫も随分と落ち着いてきた。

まだ多少、わがままではあるが…。

思えば最近、段々と覚えなきゃいけないことも増えてきて、初々しく取り組んでいる姿が可愛らしい。

あぁ、俺、こんなこと考えてるなんて、おかしいな…。

姫はあと何年かしたら、どこかのお偉いさんの家に嫁ぐのに。

手の届かない場所に行ってしまうのに。

見ることも、会うことも出来なくなってしまうのに。

馬鹿だ、俺って。

こんなこと考えても辛いだけだろ。


「聞いてるのか、紅羽。」


「はい?って、何だ香蓮か。」


いつの間にか、俺の唯一の相談相手である香蓮が横に立っていた。

同じ使用人の中で一番心を開いている人物だ。


「やっぱり、何も聞いてなかったんだな。」


「何か、言ってたか?」


何も、聞こえなかったが…。

そんなに物思いにふけっていただろうか。


「結構重要な話だったんだが。何だ、また閏様のことか?」


「そんなんじゃない。」


そんなんじゃなくないのだが。


「いや、そうだろう?」


「図星か。」


「紅羽、お前は閏様のことを考えているとき、遠い目をしている。なぜなら、愛しい閏様との唯一の思い出は、遠い昔のことだからだ…合ってるだろう?」


「黙れ。」


あの時以来、愛しき者を遠くから見ることしか出来なかった俺の気持ちなど、分からぬくせに。


「まぁ、そう睨むな。重要な話というのは、その閏様の事なんだが。」


「姫の?」


俺宛てに、姫に関わった話?


「…その『姫』っていうのやめないか?普通に使っていいもんだと思わないんだが。」


「そうか?」


「あぁ。毎回思ってたんだが、閏様とか、かろうじて姫様にしろよ。」


なるほど。


「分かった。」


「ならよろしい。で、話なんだが、紅羽に重要な話があるから、王室に来るようにと、王様が。」


「そうか。ありがとう、香蓮。」


「どういたしまして。お前にとって良い話であることを祈ってるよ。」


「行ってくる。」


俺は、踵を返して王室へと向かった。
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