見えない誘惑
Secret Temptation
「今夜だけでいいから俺のものにならないか?」

 ただの同僚だった水谷が、その一言を囁いたのは忘年会の夜だった。

 何も言わずにウイスキーを飲み干す。その上下に動く喉仏の動きが、とてもセクシーに感じてドキッとした。

 きっと、いつものように私をからかっているだけ――。

 普通に考えたら、そんなところが関の山だ。

「今日は即答じゃないんだな。もしかして欲求不満か?」

「なっ……何を言ってるの! バカじゃないの?」

 内心、胸を暴かれたような気持ちになり、ごまかすようにツンとそっぽを向く。

 彼の推理は悔しいことに当たっていた。

 欲求不満ではないが、遠距離恋愛の彼氏とは二ヶ月も逢えずにいるのだから。

「水谷・井川……このあとの有志で二次会するって話だけど、お前らどうする?」

 そこで、仲間内の同僚が私たちに声を掛けてくる。と、水谷はテーブルの下で私の手を握りしめた。

「えっ……?」

 突然すぎて、水谷の行動の意味がわからない。

 だけど、その熱い手にカラダが誘惑されているような気分になった。
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