お嬢様になりました。
第十話 好きだから……
両親は忙しくて、普段は滅多に家に居ない。


それはガキの頃からで、気付けば一人で家にいる事に慣れていた。


使用人は俺に口ごたえする事もなければ、用がなければ話し掛けてくる事もない。


家の中にどれだけ人が居ようと、一人で居るのと何ら変わりない。



「隆輝さん、宝生院会長のお孫さんとは上手くいっているの?」

「あぁ」

「そう、それは良かったわ」



母親のわざとらしい程の笑みに吐き気がする。


今日は珍しく両親が家に居て、夕食を一緒にとっている。


両親と食事をするのは、年に数えるくらいしかない。


誰かと一緒に食事をする事に、楽しさも嬉しさも特に見出せない。


一人の方が楽でいいとすら思う。


それでも、葵との食事の時間は好きだ。


二人きりじゃなくてもいい。


あいつがその場にいる事が、俺の心を不思議と満たしていく。



「最近は帰って来るのが遅いらしいじゃないか。 学校で放課後何かしているのか?」



暫く会っていないし、特に会話もしていないのに、両親は俺の生活パターンを常に把握している。


管理されている気がして気分が悪い。



「葵の用事に付き合ってるだけだ」

「今度葵さんと宝生院会長を我が家に招待しよう」

「まぁっ! とっても素敵な案ねっ」






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