声の魔法
声の魔法
「綾瀬結衣さんはご在宅でしょうか」

「結衣は私ですけど」

低く美しい男性の声音が電話越しに響く。
私はその声に耳を傾けながら、目を閉じた。

「こちら山梔子の森の図書館ですが、予約の本が入荷しておりまして」

ああ、そういえば。
授業の課題に使う資料を予約していたのだ。

「一週間以内にお越しいただけますか?」

私は目を閉じたままその声を堪能して、返事をした。

「近いうちに伺います」

「では、よろしくお願いします」

色気を含んだその声に、暫く受話器を握りしめたまま、動けなかった。

同じ高校の彼氏とは違う、洗練された紳士的な言葉遣い。
低く魅惑的な声。私は一瞬で恋に落ちた。



そんなの嘘みたい、と私はその男性が指定した期限ギリギリ末日に、おずおずと図書館を訪れた。

「あのう」

お待たせしました、と迎えてくれたのは、若い女性。私は学生鞄を持ち直す。

「いえ、いいです」
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