トイレに駆け込んで、洗面台に両手をついた。
勢い良く蛇口を捻って、冷たい水を手で掬う。
そしてバシャバシャと音を立てて顔を洗った。


顔を下向けたら涙が零れたのがわかったけど、顔から落ちる滴に上手く紛れてくれる。


泣いてることを自覚したくなかった。
認めてしまったら、郡司さんにキスされたことを意識してしまいそうで。


記憶から抹殺する為に、私は笑わなきゃいけない。
唇に残った温もりも感触も、全部洗い流してしまわなきゃ。


ブラウスが濡れる位、勢い良く顔に水をかけ続けた。
それと一緒に、手の甲でゴシゴシと唇を拭う。
擦れて痛い位に、何度も何度も繰り返した。


そんなことをしたって、キスされた事実が消える訳じゃないってわかっていても。
何もしないよりは、気持ちが落ち着く気がしたから。


前髪からポタポタと滴が落ちる。
私は洗面台に腕を突っ張らせて、ただ俯いた。


どうしてこんなことになったんだろう。
私と忍、半年前までは上手くいってたはずなのに。
離れてても信じていられるって思ってたのに。

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