≫ロックフェス
ここから連れ出して...
小鳥の声が聞こえる…嗚呼、もう朝か…。
莉夢はそう呟くと一度深呼吸をして、今日見た夢を思い出す。

「いや!やめて!出してよ!!」
夢の中、私は監獄の中でそう叫んでいた。
「うるさい!とっとと黙れ!」
看守はそういい、私を跳ね除けた。
そこに青年が現れ、私にこう言った。
「もうすぐ、出してあげる」
そう言うと、青年は看守を次々と倒していき、私の前に現れた
「ここから連れ出して…」

「可笑しな夢を見てしまった…疲れてるのかな。」
そう言うと、莉夢はパジャマを脱ぎ捨て、制服に着替える。
憧れだった桜蘭学園の制服。
慣れてくると、特に可愛いとも思わない。
ふと時計を見ると7時を過ぎている。
「まずい…」
莉夢は階段を駆け下りると、家政婦さんが用意してくれたフレンチトーストを頬張り、玄関の方へ駆け出す。
莉夢には母がいない。莉夢がまだ物心つかないうちに死んでしまった。
だが、母のことなど莉夢は覚えていないため、悲しくなど思わなかった。
急いでバスに乗り、学園に向かう。
憂鬱だ。莉夢は人と接することが苦手なため、学園が好きではなかった。
特に趣味もないため、部活にも入っていない。いわゆる、帰宅部。
友達のいない学園など、楽しくもない。莉夢は悩んでいた。
そうこうしているうちに、バスは学園に着いた。
「はあ…また、いつもと同じ生活が始まるのか」
呟きながら、玄関で靴を履きかえ、教室へ向かう。
いつも通り教室は煩い。生徒は皆、騒いでいる。
莉夢が図書室に向かおうと、席を立ち、廊下を歩いていると、何かに当たった。
慌てて前を見ると、男子生徒が立っている。確か同じクラスの鬼沢君だ。
「ごめんなさい!下を向いて歩いていたので…ではっ!」
苦手な男子とぶつかり、慌てて逃げようとする莉夢を、男子生徒は呼び止めた。
「ねえ、桃井さん、ぶつかったお詫びに、ちょっと付き合ってくんない?」
「へ?」
ぶつかってしまった訳だから、断る訳にはいかない。
しぶしぶついていくことにした。
しばらく鬼沢君と歩いていると、図書室に連れて行かれた。
そして、隣同士のカウンター席に座り、口を切った。
「桃井さん、帰宅部だったよね?」
咄嗟の質問に私はひっくり返りそうになってしまった。
「え?あ、はい、そうですけど…」
消え入りそうな声で呟く。すると、
「俺、軽音部に入ってんだけど、どうも人数が1人足りないんだよ。
 桃井さん、良かったら入らない?」
莉夢は驚いた。今まで、莉夢を部活に誘う人などいなかったからだ。
「あ、いや、その…私、楽器とかできないし、歌も下手だし…無理です!!」
もう限界だった。莉夢は顔を真っ赤にして図書室を飛び出した。
教室に戻ってから後悔する。ぶつかったのは私なのに…こんな私に話しかけてくれたのに…と。
後で、謝ろうと決意した。
しかし、なかなか話しかけることができない。鬼沢君はクラスのリーダー的存在で、いつもクラスの中心だったから。
今しかない!莉夢は鬼沢君が1人のタイミングを見計らって、駆け出した。
鬼沢君の前にたどり着くと、
「さっきはごめんなさい…」
と言った。すると。鬼沢君は
「え?ああ、さっきのことね」
と呟いたあと、顎に手を当て、何かを考えているようだった。しばしの沈黙の後、鬼沢君は
「じゃあ、桃井さんが軽音部に入部してくれたら許すよ。」
笑顔で言った。
「えぇ?!そんな条件、ひどいですよ!もういいです。入ります。」
莉夢は開き直って、軽音部に入ることを決意した。
鬼沢君との話は終わり、放課後、入部届を出しに行くことにした。
1人で行くつもりだったが、なぜか鬼沢君もついてきた。
そうして、莉夢の軽音部入部が決まった。

今思えば、あの夢に、意味があったのかもしれない。
鬼沢君は、私を孤独から連れ出してくれたから…
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