ドメスティック・エマージェンシー
第十章
言葉とは、信じられない。
どうとでも言える飾りだ。

例えば着こなしているわりに実は嫌いな服とか、音楽がさほど好きでもないくせに愛してるだとか。

恐ろしいことに、人間はそれを真実だと捉える。
以前の私が、そうだったように――


鳥かごに帰ってきた。
いや、私はライオンか。

寝ころびながら横を向くといつもと違う視界が手に入った。
虚ろに見つめた窓際が平和を伝えてくる。
平和なのに、歪んだ世界を。

私は出られない。
逆らえない。
動物園で見たライオンのように、力があるのに……出来ない。

一度捕らえられたライオンは悟ったのだ。
無駄だと言うことを。
きっと私は両親からの[イイコ]の檻から出られない。

携帯をもうしばらく見ていない。
葵はどうしているだろうか。






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