ドメスティック・エマージェンシー

第十一章

「殺せよ」

頭上から、まるで口説き文句のように落とされた言葉。
受け止めるべく見上げると、真っ白の天井に派手派手しい大きな目が二つと、周りにぐにゃぐにゃの線が描かれた見たことのある顔があった。

天井と同じくらい真っ白な仮面は見えないくらい同化していて、そこだけがはっきり見えるようになっている。

不気味だ。
だが、綺麗だとも思う。

真っ白な部屋にぽつんと浮かべられた絵。
しかし地味ではなく、むしろ自己主張が強く薔薇を思わせる。
この部屋の白さ全てが、あの仮面に服従しているよう。

見惚れた私を蔑むように「殺せよ」と、もう一度繰り返した。

「……やめてよ」

目を逸らす。

あの男の特徴的な唇はないのに、聞こえる声。
頭に響く声が、私を狂わせる。

「殺せよ」

「やめてよ！」

頭を抱え込み無様に座り込んだ。

私は、異常者になりたくない。
なのに男の誘いは甘美な蜜のように、手を出したくなるのだ。