母校の大学で結婚式を挙げたいと言う親友の頼みで、今日、卒業から数年ぶりにここを訪れた。

普段、オープンカフェとして使用されている芝生とレンガの中庭。

そこをガーデンウェディングの舞台として使用させてほしいと頼みに訪れたのだが、あっさり快諾されたので時間ができ、学内をブラブラしながら、自分がここへ通っていた頃の事を思い出していた。

懐かしい、この独特の空気と匂い。

春休み中なので学生は余り見当たらない。

パンプスの音が少し控えめになるよう、ゆっくり歩を進め、とある部屋の前で足を止めた。

コンコンコン

あの頃と同じようにノックしてみる。

ちょっとしたノスタルジーのつもりだったが、誰もいないと思っていたそこで、声がした。

「どうぞ」

その声に、心臓が大きく波打つ。

懐かしい声だった。

おずおずとドアを開け、頭だけ中に入れると、あの頃と全く同じ姿勢で、彼が分厚い本を読んでいた。

「よう、久しぶり」

同じ声、昔と同じ言い方。

「元気そうだな、昨日、仕事で来るって聞いたから、もしかしたらここにも来るかなって思ってたよ」

「……待って、た、の?」

驚きで、言葉が変に切れる。

すると彼は椅子から立ち上がり、入り口にいたあたしの左手を掴んで中に引き入れ、鍵をかけた。

流れるような見事な動き。

面食らっていると、彼が掴んだままの左手をじっと見つめ、薬指に納められている指輪を目で射た。

「彼氏?」

「え? あ、はい――」

しまった。外してくるんだった。

後悔したが遅かった。

普段なら業務中は外すのだが、今日は外ての業務なので、少し気が緩んでたらしい。

「まだ、付き合って間もないんだけど、誕生日に――」

「ふうん」

無関心を装った嫉妬の声。

それに気づいた瞬間、側の壁に押し付けられ、激しく唇を奪われた。

懐かしい感触。

「……連絡しようと思ってた」

吐息混じりに言われる。

「離婚が成立したんだ」

また、胸が大きく波打った。

学生時代、丑の刻参りをしかねない程に願い、最終的には疲れてしまって手放した、この男との恋。

「今度は僕がきみを奪う。あの頃沢山苦しめたから、これで同等だ」

もう一度キスした後、ひざまづいた彼が、あたしの左手薬指を口に含み、そっと、その舌で指輪を抜き取った。


fin

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