心の鍵
心の
この日の朝礼は、いつもと雰囲気が違っていた。

私が勤務する支店は、近々閉鎖かと噂がたつ程に業績不振だった。その支店の立て直しを計るべく、本日付で本社から凄腕の男性が送り込まれてきたのだ。

スーツをピシッと着こなして皆の前で挨拶をする彼は、凄腕と呼ばれるにそぐわない、20代前半くらいの今どきのイケメン君。

男子社員の刺すような視線を遮って、早速女子社員の熱い視線がフロアを飛び交い始めた。

四捨五入すれば40歳になってしまうアラフォーの私からすれば、どうぞご勝手にの心境だ。

私には夫婦同然とも言える程、長く同棲している婚約者がいますからねーだ。今更若者に興味はありませんよー。
と、自分に言い聞かす。

「早く正式に売れてくれ!」

両親の言葉は痛い程分かる。

でもここまでくると、今更籍を入れて名前が変わるとか、親戚付き合いとか、いろいろ面倒に感じ始めている自分がいるんだよね。


―――。


「すみません、お願いがあります。この書類なんですけど…」

今どきの若者なのにすごく礼儀正しくて、凄腕のくせに腰の低いイケメン君のこれが仕事の頼み方。

若者に対する私の偏見を少しずつ壊してくれる言動だ。

それに何故だろう…。
無愛想な態度のはずの私に、彼はどんどん仕事をぶつけてくる。

「すみません、お願いがあります。得意先の会社なんですけど…」

でもサクサク進む仕事の話は、嫌いじゃないな。
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