あくまでも慎重に向き合わなければ。



 真依子は必ず、僕に重要な何かを隠しているに違いないのだから――。



「…疑ってないよ」

「…でも、何か知ってるんじゃないかと思ってるんでしょう?」

「君がそういう態度を取ったんだよ」



 まるで捨てられた野良猫のような顔をする真依子を魔性の女なのかと疑心を抱いたのは言うまでもなく、僕は言う。

 決して威圧的でもなければ、投げやりでもない、絶妙なトーンで。



 すると彼女は、諦観するように鍵盤から人差し指を離して小さく笑んだ。



「確かにそうかもしれないわね。謝るわ。……けれど、あたしは苦しむそらを見たくないだけよ。だから力になりたいと思って、こうして会いにくるの」



 はらはらと舞いおちる羽の如く、柔らかい笑み。ぞくりと、背中が少し粟立った。

 やっぱり、彼女は普通じゃない。

 苦しむ僕を見たくないから、自分から関わっているのだとでも言いたいのだろうか。

 意味がわからない。その好意にも似た彼女の想いを、素直に受け止められない僕がいる。



「…苦しんでなんかないけど」

「…そうは見えないわ」



 投げつけるよう告げた僕の言葉を拾いあげて、真依子は静かに首を横に振る。

 同情のつもりなのだろうか。

 何度会っても毎回新しい表情を見せる彼女に、僕は呆れて吐きだすため息すらなかった。



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