拝啓、今ソチラに向かいます

過去

バカな事をする
と誰かが自分を嘲笑ったような気がした

浅い眠りからパッと目が覚めた少年の目は重く、今にもまた落ちそうだった

そこら辺のガラスを手当たり次第に掴み自分の顔をそれに写す

醜い顔だ
とまた誰かが自分を嘲笑う

幻聴か…
と首を横に振る

血が滲んだ口の端
頬には1つの切り傷

ガラスを地面へと投げた少年はジーンズのポケットの中へと手を突っ込む

取り出したのは黒い缶ケース
中の物を取り出すと、迷わずに口に含んだ

「…俺は、これに生かされてるわけじゃない」

少年はそう呟くと地面に拳を叩きつけ
その場を立ち去った





ビュン
ビュン
とビルとビルの間を飛び跳ねる影

複数の男の目の前には少年の姿があった

少年はビルを降りると壁を飛び、その下へと降りる

すると
「キャッ!」

と声が聞こえた
が、なんなくその人を避けて逃げ切れたようだった

叫んだ人は、呆然とその場に座り込んでしまった

と、次には自分を避けながら走っていく複数の男達に呆然とした

あの少年を追っているのだろうか?
それでも、振り返るのが怖い

少女は恐ろしさに腰が引けてしまっていた

と、トントン…
と肩を叩く手

恐る恐る振り返ると、

「キャア!」

またもや叫んでしまった

視線の先には先程自分を通り過ぎて行った筈の少年がいたのだった
しかも、にこやかに自分を見ている

「な…なに?」

聞くと差し出される手
はい?と聞き返す

「俺、ゆたか」

一言だけ、そう呟く少年
少女は、ますます不思議がったが差し出されてる手を受け取り立ち上がった

「うちは、りょうって、いうの」

「りょうか」

深くなる笑顔

少年の言葉を聞いていると、少しだけ日本人にはないような訛りがある

「あなた、中国?」

聞くと頷く

「さっきは、ごめん…驚かせた」

「ううん、大丈夫…それより戻ってきてよかったの?」

またもや聞くとただ頷いてくれた
少年もとい豊は、りょう優しいと呟いた


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