妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
序章
 京の都の葬送の地・蓮台野。
 人の屍が転がるこの地にも、新年ともなれば雪が降り積もる。

 周りの音を吸収して、しんしんと降り積もる雪に、呉羽(くれは)は恨めしげな目を向けた。

「うう、寒い。寒いは客足は遠のくは、全く雪なんぞ降られた日にゃあ、良いことがない」

 火鉢にぺとりと引っ付いてぼやく呉羽は、まだうら若い女子(おなご)だ。
 見てくれも貴族の姫君にも劣らない容姿なのに、その口から出るのは、姫君にあるまじき言葉遣いだ。

 住まいも、この蓮台野。
 彼女は魑魅魍魎の跋扈する葬送の地に住む、外法師なのだ。

「全く、ちょっとは雪で歌を詠むぐらいのこと、してみりゃどうだ」

 簀の子(すのこ)に出て雪を眺めていた男が、呆れたように言う。
 分厚い袿を引っ被り、火鉢に取り付く呉羽とは対照的に、男は単に衣を重ねただけという軽装だ。
 呉羽は男をちらりと見、ぶるっと身体を震わせた。

「お前な、いくら刀だからって、そんな薄着で外に出るな。見ているこっちが寒くなる」

「そんだけ着込んだ上に、火鉢にくっついておいて、何が寒いだ」

 言いながら、男は呉羽に歩み寄ると、その襟を掴んで、ぐいっと火鉢から引き剥がす。
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