攫って奪って、忘れさせて。
攫って奪って、忘れさせて。
「何歌おうかなぁ」


左隣に座る親友が歌集を見ながら楽しげに曲を探してる声を耳に入れながら……

歌い終えたばかりの私は喉を潤すために、目の前に置かれたカシスオレンジに手を伸ばしてそれを口に含んだ。

そういえば私が歌う前まで右隣にいたはずの彼がいないことに気付く。

どこへ行ったんだろうとこの大部屋の中を見回した。

サークルのメンバー20人ほどで来たカラオケ。部屋は薄暗いからか、いつもならすぐに見つけられるのにどこにいるのかわからない。

と思っていたら、ちょうど部屋のドアが開いて彼が入ってきた。

トイレにでも行っていたんだろうと思っていたのに、私の瞳に飛び込んできた光景に胸がズキンッと痛んだ。
< 1 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop