キモチの欠片

寝室のドアが開き、風呂上がりのゆずがそっと顔を出した。
何それ、めちゃくちゃ可愛いんですけど。

普段とは違うゆずの反応に頬が緩む。

「あ、あの……お風呂ありがと」

俯きながらチラリと俺の方を見るゆずに、こっちに来いよと手招きした。
緊張しているのか、ゆずはビクッとしながらも、おずおずと寝室に足を踏み入れる。

目の前に立つゆずの腕をぐいと引き寄せると、不意を突かれたその身体は勢いよく俺の方に倒れかかってきた。

「わっ、なにすんの」

焦ったゆずが声をあげる。
ギシッとベッドを軋ませゆずが俺を押し倒した形になった。

その時にふわりとゆずの髪の毛から俺と同じシャンプーの香りが鼻を擽り今すぐ抱き締めたい衝動に駆られる。

が、必死にベッドに両手をついて俺との接触を防いでいる姿になんとも言えない気持ちになった。

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