隣の彼の恋愛事情
(そんなに私のキスやばかった?)

真っ赤だった顔の温度が急激に下がったのがわかる。

確かにキスが上手いかと尋ねられれば、答えは‘否’だ。

胸を張れるほどの経験がそもそもない。

膝の上で握られた拳をみつめて、ぐるぐると考えていると、急に車がUターンをして動き始めた。

「あの、えーっと、これ家とは反対方向なんですけど」

いきなりの方向転換で驚き尋ねると

「合ってる」

「でも、ちが――」

「俺の家の方向で合ってる」

「え?それって」

「いいからだまってろ。こんな状況でお前を返せるほど俺は人間できてないんだよ」

そう言って、アクセルを思いっきり踏み込んだ。

(神様、そこに私の意志は存在しないのでしょうか?)

スピードを上げた車の中で、私は存在自体が怪しい神様に問いかけた。
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