明日へのメモリー

 樹さんの両手が一層強くわたしの腕に食い込んだ。

 目を閉じていても、視線が突き刺さるようだ。

「ごめんなさい、変なこと言って……。いいの、気にしないで」

 やっぱり、あり得ないよね、そんなこと……。

 沈黙に耐え切れず、慌てて撤回しながら、何とか身を引き離そうともがいた。

「今のは忘れて……。わ、わたし、もう帰るから……」

「帰せる……はず、ないだろうが!」

 逃さない、というように、彼はわたしを片腕できつく抱えたまま、携帯を取り出した。

 もしかして、フロント……? その会話にどきりとする。

 急きょ、このホテルに部屋をひとつ頼んだようだ。

 でも、ここって、日本でも五指に入る国際ホテルじゃなかった? 


 困惑するわたしを引きずるようにして、エレベーターのボタンを押すと、中へ引っ張り込んだ。

 二十五階で降りると、ホテルマンが待っていた。先に立って丁重に案内してくれる。

 落ち着き払った態度で堂々と歩く樹さんに、わたしは驚きを隠せなかった。

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