レストランを出たところで雅也の電話が鳴った。ちょっとごめんと携帯を耳に当てるその姿を眺めて母が微笑む。

「素敵な人ね」

老いた手が私の背中を撫でた。

「女はね、愛するより愛された方が幸せよ」


「すみません、会社からで――どうかしました?」
 
私達の様子に気づいた雅也に母は笑いかけた。

「雅也君にもらってもらえるなんて、恵理は幸せねって」
「いやぁそんな僕の方こそ」

小さく首を振り、母は頭を下げた。

「この子をお願いします」

出版社に勤めている雅也は忙しい時間を割いて私の母と食事をしてくれる。真面目で情が細やかで素敵な人だ。母の言う通りに。