モカブラウンの鍵【完結】

結婚

「涼太、早く!」

支度を済ませた奈央美が玄関の前で、小さな地団駄を踏んでいる。

「そんなに焦らなくたって、ウェディングドレスは逃げないよ」

俺は、車の鍵や携帯をポケットに突っ込み、奈央美のもとへ小走りで行った。

「その予約の時間ギリギリになりそうだから言ってるの。プランナーの人を待たせたら失礼でしょ。結婚式の日までお世話になるんだから」

「分かってるって。ほら、行こう」

奈央美の手を握り、玄関のドアを開けた。手を繋いだだけで嬉しそうな顔をする奈央美に軽くキスをする。

「な、何してるのよ。ここ、家の中じゃないんだけど」

「誰もいなし、大丈夫。せっかくドレス試着するのに怒り顔はもったいないと思って。今、すごく可愛い顔してるよ。式場までキープね」

奈央美は小さな声で「ばか」と言った。


ゴールデンウィークが明けて、日常の生活が戻ってきたとは言えない。

1月に奈央美が家に引っ越してきて、3月に入籍、5月に新婚旅行。そして8月には結婚式。結婚式まであと3カ月しかない。

職場が一緒だから、仕事と上手く両立はしているけれど、やっぱり慌ただしいことには変わりない。それでも、奈央美が一緒にいれば、忙しいことも、大変なことも、楽しいと思えてしまう。


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