モカブラウンの鍵【完結】

視線

「ただいま」

「あ、お帰り、涼太。それ、何?」

 せっかくの休みだったのに、休日出勤になってしまった。仕事が終わり、帰りにロゼのスパークリングワインを買ってみた。何だか無性にこれが飲みたくなったからだ。

「スパークリングワイン。夕飯の後に飲もうよ」

「うん」

 奈央美は嬉しそうにワインを持ってキッチンへ行った。

 リビングに行くと、雛人形が飾ってあった。母さんが生きていた頃、姉ちゃんと一緒に飾り付けしていたのを思い出した。この雛飾り、何年ぶりに見たんだろう。

「びっくりした? 今日のお昼、宏実さんが来てね、一緒に飾ったの」

「そっか。懐かしいや」

「宏実さんも言ってた」

「これは姉ちゃんのなんだから、自分の家で飾ればいいのにな」

「私も同じこと言った。でもね、宏実さんが“この雛人形はこの家になくちゃダメなの”って。きっと、お義母さんの思い出はこの家に置いておきたいんだよ」

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