体育館の天井に挟まっているバレーボール
*
初めてその話を聞いたときは、驚きよりも先に怒りが湧きあがった。
「なんで教えてくれなかったんですか?」
出来るだけ感情的にならないように、かつ、有無を言わせないような口調。
先輩は私が顔に出さないだけで怒っていたことなど分かりきっていただろう。
それでも、なんともなかったかのように先輩は言った。
「だってお前、言うとうるさいだろ。」
付き合い初めて三ヶ月。
三、というのは節目の数字で、別れやすいようだ。
迷信だと思っていたことなのに、本当だったんだなぁ、と思ってしまった。
やだ、やだ。
始めにでてきたのはそんな子供っぽい感想で、そんなんじゃ先輩を引きとめられないって分かっていて、でも、それ以上の言葉は出てこなかった。
「嫌です。」
「んなこと言ったってお前、親の都合だし仕方ねーだろ。」
「行かないでください。」
「だから無理だって。新幹線乗ればすぐ着く所だから大丈夫だっての。」
「全然、大丈夫じゃないです。」
距離の問題じゃないんです。
会いに行こうと思えばいつでも会いに行けるだろうけど、私が気にしてるのはそこじゃないんです。
「先輩、私と毎日会えなくなるんですよ。」
「まぁ、少し距離を置いてみたほうがいいこともあんじゃねーの。てかお前、言ってることなかなかだぞ。素なのか?」
「寂しくないんですか?」
毎日じゃなくてもいいんです。
ただ、会いたいな、と思ったときに、新幹線じゃなくて、歩いて会いにいける教室間の距離のほうが、ずっといいんです。
「寂しいだとかお前、めったに言うもんじゃねーぞ。体育館の天井に挟まってるバレーボールの気持ち考えてみろよ。」
前はどことなくズレている先輩の話し方が好きだったのに、今じゃムカつく要素にしかならない。
結局私は無言のままその場を立ち去った。
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