光の花は風に吹かれて
Act.1:種を蒔いたのは、私です。
『うぅー』

セストのこげ茶色の髪が風になびく。

母親でありヴィエント王国の王妃であるお腹の中ですくすくと育つ小さな王子――ルカ――は、今日も風となって遊びに出てきている。

しかし、いつもとは違ってずっと唸りながらセストのくせっ毛を更にくるくるさせているのだ。

これは新しい遊びなのだろうか?

セストは風に揺れる自分の毛先を視界に映すのをやめ、隣に座っているリアへと視線を向けた。いつもなら、こんなに髪の毛をボサボサにされるほどルカが遊ぶとリアは息子に注意するのだけれど。

先ほどからセストを見て……というよりは“観察”している彼女の手は完全に止まっていて、今週の往診報告書は半分も書き終えていない。

王妃となり、今はお腹も大きいリア。彼女が自ら往診へ行くことはなくなったけれど、ヴィエント城の王家専属クラドール――医者――として働くイヴァンとディノの報告書作成の手伝いや薬の調合など、城で行える簡単な仕事は今もこなす。

そして、それを行うのが城の1階の角部屋に設けられた研究室――セストとリアが今いる部屋、クラドールの執務室だ。本棚には分厚い本や薬の入った瓶がきれいに並べられ、机はクラドールの人数分4つが正方形の形にくっつけて置かれている。

セストはヴィエント国王の側近を務めているので自分の執務室もあるが、クラドールも兼任していて、そちらの仕事は研究室で行う。今日もそうして研究室にやってきたわけだけれど……
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