Last flower【執筆中】
1.
その日の空の色はとても不気味で、けれどもそれ故に、あまりにも美しかった。

幾房もの葡萄をめちゃくちゃに足で踏み潰して、空中いっぱいに塗りたくったような。

不思議な朝だった。
視界がもやもやと薄く白い、朝早いひとけのない町。

見た事もない平坦で長い長い道を、年老いた男が運転する車は走り続けた。

双子の少女達は後部座席にもたれかかる様にして、お互い左右別々の景色を眺めながらも、ずっと手をかたくつなぎ続けていた。

 そうしていなければ彼女達はきっと、今のこの状況に、とてもじゃないけど耐えられなかったから。


 一体、何時間くらい車は走り続けたんだろう?

 「ほら、降りなさい」

 ぶっきら棒で不愉快な響きの男の声に押され、ゆっくりと少女達は車を降りた。

 ふいに肌寒い風が吹き、彼女達が着ているお揃いの、黄色い蝶がプリントされたワンピースの裾を揺らした。

 車が停まったのは、元は真っ白であったであろう薄汚い、門の前。
 錆びついた看板には「last flower」と、かろうじて読み取れる、色褪せた文字が書かれていた。

 見上げると、高い高い灰色の壁には一面に、錆びついた有刺鉄線が張りめぐらされている。

「何してるんだ。さっさと来なさい」

 不愉快な声の持ち主は彼女達の叔父だった。

 手をつないだまま、ぼんやりとその場に立ち尽くしていた彼女達に、少し苛立つように叔父は言い、ギィ、と嫌な音を立てて門の向こうに入っていった。

 叔父にしたがって、のろのろと門を通り抜けると、こぢんまりとした薄暗い壁の建物が見えた。

 その建物の手前には、小さな庭のような枯れかけた芝生に、錆びついた二つのブランコと、象の形の滑り台、それから、塗装の剥げた小さなジャングルジムがあった。
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