Last flower【執筆中】
12.
その晩、カスカ達はチャルにアンコの事を聞いてみた。

「あの子、ほんとはコトリが本名なんだけどさ。

ここに来る前ね、頭弱っちいから好き放題、同級生の男子達にマワされたらしくて。

だから昔はあだなが『マンコ』だったんだってさ。サイアクよね。

そんで、この辺の事はよく知んないんだけど…

両親がどっかのデカい会社のお偉いサンとナントカ財閥の令嬢で

アンコみたいな子供がいるのは恥晒しだとか言って、ここにぶち込まれたみたいよ」

肉に埋もれたように小さいアンコの目。

低いのに細長いアンバランスな鼻と、ミカンを二つ重ねたように、分厚い唇。

カスカが続けてチャルに問いかけようとした時、

「あの。ごめん、トイレ、行ってくるね」

ユルカが立ち上がった。

そういえば、今朝もその言葉を聞いたような…。

「あ、もしかして生理?」

チャルは立ち上がりかけたユルカに、屈託なく言い、

「…うん、そうなの」

戸惑いながらも、ユルカは答えた。私は驚きのあまり、何も言えなかった。

やがてユルカは一度、私と目をパチリと合わせた後、ドアの外に消えていった。

何故だか胸が焦げつくような思いで、カスカはそのままドアを見つめながら、

「いつ生理、始まったんだろう…」

思わず呟いた。するとチャルは

「え?あんたはまだ来てないの?」

「うん…」

答えながらもカスカの頭の中は、先っちょがフォークの形になっているスプーンで、

ぐちゃぐちゃにかき回されたように動揺していた。

「へぇ…。双子って、成長の仕方も一緒なのかと思ってた。

特に、あんた達くらい見た目がそっくりな双子はさ。」

「…………」

カスカも何となくどこかでそう思っていたし、もしもその時が来たら、

ユルカとお互いに教えあうだろうと思っていた。

「ただいま」

程なく、ユルカが戻って来た。どうしてか、その目を見ることが出来ない。

(…なんで教えてくれなかったんだろう?)

幼稚な怒り。よくわかんない焦り。取り残されたような寂しさ。

それら全ての感情をミキサーにかけた不愉快な味の飲み物が、喉元までせり上がって来るような感覚。

何よりも悲しかったのは、ユルカが生理になった事を教えてくれなかった事だ。

「教え合おう」なんて約束を、していたわけじゃないけれど…でも。
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