Last flower【執筆中】
15.
あの男の子と言葉を交わすのは、今日が初めてだ。
 
しかし、ドアの向こうから出て来たのは別の男の子だった。

あの、茶色いワンコのような男の子。

声が深く落ち着いている、大人びた微笑みを見せる子。

「カイ?あーたぶん外じゃないかな。あいつ、建物の裏でよく編み物してるから」

「あの、ドロドロ川の方?」

「うん」
 
-ユルカの緊張が伝わって来るーー。

手を繋いでドロドロ川の方へ歩みを進めるたびそれはどんどん張りつめていった。

しかし、声は聞こえない。テレパシーで伝わるそれとは異質の緊張感。

さっきカイの居場所を教えてくれた少年の名はスイムといった。

「俺はSだよ。ここにいる中で一番年上なんだぁ。十七歳。なんかわかんないこととかあったらいつでも聞いてねー」

優しくくしゃりと鼻にシワをよせて笑う男の子。のんびりとした口調にカスカは好感を持った。
 
カイとは同じ時期にこの施設に入っているから仲がいいらしい。

「カイねー、あいつちょっと変わりもんだけど。でもいいヤツだからさぁ、仲良くしてやってねー」

 
ドロドロ川の側。壁に寄りかかりながら、カイはスイムが言っていたように一人で黙々と編み棒を動かしていた。
 
カスカとユルカは一瞬見つめ合った後、ゆっくりと彼に近づいていった。
 
「?」
 
カイは双子の存在に気づき、編む手を止めて目を上げながら「何?」とでも言うように首を傾げた。

「…あ…あの、あのね」

カスカは思い切って口火を切った。

が、こちらをじっと見つめる真っ黒な暗闇のようなカイの目から何故か視線を逸らしてしまった。

「あの…ポンのプレゼントね、欲しいもの聞いたら、あなたが着てる緑のシャツみたいのがいいって言ってたの。

だからもし良かったら、貸してもらえないかなと思って…」

ユルカがカスカの代わりに伝えた。

わずかに震えているその声を聞き、カスカは頷くことしか出来なかった。
 
カイは何も言わず、毛糸玉でいっぱいの紙袋の中に編み棒と編みかけのマフラーだかなんだかを突っ込み、立ち上がった。

「ぼろいよ」
 
ぼそっとつぶやいた。それ以外は何も言わず、部屋に戻ってシャツを双子に無造作に手渡した。
 
そのシャツは本当にぼろかった。クタクタで、袖の糸が解れていたりした。

けれどこれをカイというあの少年が着たらきっと良く似合う、とカスカは思った。

深く沈んだような緑色。ところどころ剥げかけている金色のキリンのプリント。
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