Last flower【執筆中】
3.
二週間前。双子の両親は、夫婦喧嘩の果てにお互いを刺し違えて死んだ。

学校から帰って来た双子達は、血にまみれた床の上で、折り重なるようにして死んでいる両親を見つけた。

なぜだか不思議と、今までで一番仲のいい夫婦の姿であるようにカスカには見えた。

不倫のはてに結婚。パパの元妻に払う慰謝料がたくさんあったのに結婚して暫く経つと、パパは働きもせず飲んだくれ、ママは親類全部に何度も何度も大きな借金をして、結局返すこともできずにそのまま死んだ。

当然誰も、残された双子達を引き取ろうなんて思うわけがない。

渋々と。
本当に渋々と彼女達を一時引き取った叔父とその家族も冷たかった。

そして今日、こんなゴミ捨て場みたいな場所に、彼女達は連れて来られたのだ。厄介払いというやつだろう。

つまりパパとママ、彼らのクレイジーラブストーリーの中に、双子の娘なんてキャストは、端から必要なかったのだ。

motherに食事をする部屋やお風呂、トイレの場所などを案内されている双子達を、そこここに点在している少年や少女は好奇の目でちろちろと見つめた。

 彼らはmotherが言っていた通りに、めいめい色んな場所で、色んなことをしていた。

 画用紙いっぱいに、クレヨンの先が潰れるくらいの力をこめて、何が書いてあるのかさっぱりわからない絵を描いている少女。

 クッションのように柔らかそうな大きなボールを投げ合って、はしゃぐ少年達。

 不自然なくらい綺麗な姿勢で、静かに絵本を読む、幼い男の子。おもちゃの携帯で、何処に回線が繋がっているのか、延々と喋り続ける少女。

「カスカ」

 ユルカの小声にカスカが振り向くと、そこには頭からすっぽりと茶色い紙袋を被った子供が座っていた。たぶん、男の子だ。半ズボンからむき出している足は色が濃く、骨ばっている。

 すぐ隣りには薄汚れた白色に茶色のブチがついた猫のぬいぐるみが置いてある。
 それをジッと見つめていると、彼の目の前にある鉛筆削りの削りカスが入ったステンレスの皿を、追いかけっこをしている男の子たちが蹴り飛ばしていった。

「あ」

 思わずカスカが声を上げると男の子はカスカを見上げた。

 紙袋には目と鼻と口それぞれの位置に、穴が空けてある。

「イェーイェーっていうの。かわいいでしょ?でもまだ子猫だから、あんまり上手にご飯が食べられないんだよ」

 唐突にそう言った少年に、カスカは何も言葉を返せず、床に散った削りカスをきれいに寄せ集めて捨て、もう一度その分だけの削りカスを皿に足していく姿をただ黙って見ていた。

 たぶん、ここにいる子供たちの中で、13歳のカスカとユルカはかなり年長なのではないかとカスカは思った。

 幼い彼らは全員お揃いの、ベージュの服を着ていた。男の子は青いライン、女の子は赤いラインで、襟ぐりや袖口が縁取られている。

 薄っぺらで、汚れが目立ちそうな膝丈くらいのその服は、幼稚園に通っていた頃に着ていたスモックという名の衣服によく似ていた。

 そして左胸には白い生地を長方形に切って縫いつけた「名札」が貼りついていた。

 身体だけ大きくなった自分達がそれを着ているところを想像してみたら、カスカはどこか滑稽で憐れな気持ちになった。

 衣服の下には皆ジャージやスカート、ショートパンツなどを履いていた。

「はい、これ」

 motherから手渡された服には、もう名札が縫いつけてあり、滲んだ黒いマジックで、名前が書かれていた。

『kasuka』、『yuruka』。

「ねぇカスカ。私達、まるで幼稚園児か囚人みたいね」

 両親が亡くなってからの二週間、日常に支障のない程度の言葉しか発しなかったユルカの、なんだか愉快そうな口ぶりにカスカは少し驚いた。

暫くの間、あまりきちんと聞いていなかったユルカの声は、なんとなく知らない女の子のようだった。
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