Last flower【執筆中】
9.
不思議と誰も口を開かず、しんと凍えたような空気の中で佇んでいた。

そうして暫くぼうっと立っていたら、突然その場にいる大人達は靴を脱ぎミノルの遺体をバチバチと勢い良く叩き始めた。

双子達が驚いていたらチャルは小声で

「アンタ達さ、こんなんでびびってちゃ、この先ここでやってけないわよ」

と言った。

「ここで自殺した子供はみんな、ああやって叩かれて、もう二度とこの世にうまれてこないようにって願われるのが習わしなのよ。ほんっと馬鹿らしいわよね」

散々叩かれた後、やっとミノルは薄汚い担架に乗せられ運ばれていった。

「ミノルの顔、初めて見た」

誰かの小さな呟きだけが、ぽつりと空に微かに舞い、やがてゆらりと墜落していった。


「私が知ってるだけでも、二人あのドブ川で自殺してるよ」

煙草に火をつけながら、チャルは言った。

「元々、頭がちょっとイカれた奴らが集まってるところだからね。あたしもここにぶち込まれてから、何度死のうとしたか知れないし」

ポンタの顔の火傷は、母親から受けた虐待の跡だったという。

いつも静かにイェーイェーと遊んでいるばかりだったポンタは、去年の冬にストーブの上の薬缶からお湯が吹き出た瞬間、獣のように吠え、唸り、大人たちに押さえつけられても激しく抵抗しまくったあと失神したらしい。

双子は数秒、沈黙した。

「あの子…あれからどうなっちゃうの?」ユルカが尋ねると、

「知んなぁい。どっかに焼くとこあるみたいだけど。ミノルみたく親キョーダイがいない子供ー『M』は、無縁仏になるだけよ」

焼き場の煙を吐き出すように煙草の煙を吐き出したチャルの言葉が、狭い部屋中に渦を巻いた。

「てゆうか、あたしはあんなドブ川で死ぬなんてまっぴら。美学に反するって言うの?
でも死にたいヤツって呼ばれちゃうのよね、あの川に。昔っから相当死んでるみたい。
motherや他のオトナ達は、ひた隠しにしてるけどね」

ハート型のビーズや貝殻でデコられてる、赤い灰皿に灰を落とすチャルの左手の中指には、砂粒のように小さなダイヤが光っていた。

「チャル、それ…」

「あ、これ?」

カスカが指差すと、チャルは右手でそれを包み込むようにして、初めて見せるはにかむような笑顔になり

「彼氏がくれたんだ、私がここに入る前。小っさいけどね、ホンモノなんだって」

やっと14歳の顔になった。そんな気がするくらい、微笑むチャルは、とても幼く無邪気で可愛かった。

結局、寝直すような時間もなく、そもそもそんな気にもなれないままカスカ達は食堂へ向かった。

配膳のオバちゃんもmotherもミノルについての事には一切触れず、まるで何事もなかったかのような顔をしていた。

『motherや他のオトナ達は、ひた隠しにしてるー』

さっきのチャルの言葉を思い浮かべたとたん、カスカはざわっと鳥肌が立った。
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